令和5年9月5日(火)染色のために長期間用意していた錆び釘――それはもう放置――を黒豆煮に使いました

最近、草木染めをやっていないのです。化学染料の色作り研究をしていて染色がまあまあコンスタントに出来ているので、当面はそれでもいいのですが、草木染めの本を読んだりしながら、時々考えてはいるのです。

草木染めでは染料の他に媒染剤を使います。はじめはなるべくそのままのイメージで染まることが多い「ミョウバン」を媒染剤にして染めていました。ミョウバンが手に入りやすいのはお漬物に使うからですかね、スーパーで売っています。ミョウバンはアルミ媒染です。水で煮出した玉ねぎの皮が黄色が染まるなど、染めた布が明るい色相になる媒染です。

奈良時代くらい昔からのやり方に鉄媒染もあります。こちらは、暗い色相に染まるのですが私はまだやったことがありません。染料店で媒染液の薬品を買うことも出来ますがせっかくなら鉄媒染液を作ろうと思いました。錆びた釘を酢で煮ると作れるというのですが、錆びた釘って意外と探すと無いんですよね。どっかにありそうなのにな…と思いながら新品の釘(ステンレスもあるので注意。鉄釘を選ぶのです)を一袋ホームセンターで買ってきて、錆びさせるためにわざわざ塩水に何日かつけて、古いタッパーに並べておきました。しかし新品はなかなか錆びなかったですね。何日も待っている間に鉄媒染に挑戦するモチベーションをさっぱり失いました。思えばまだ、暗めの色にたいする興味が足りなかったのかもしれません。

九鬼周造の「いきの構造」を読んだときに、藍色や茶色の暗い色について書いてあって、そういえば、絞りの模様を染め抜いたときに白と強い明暗のコントラストができるのは暗い色であり、模様との境目(絞りの「足」という)に微妙な色ムラができるときに、暗い色であるほどその幅は豊かになるなぁと思いました。絞り染め藍染めが人気な理由のひとつかもしれないなと思ったり。

 

そして。1年以上、いや2年くらい放置してしまった、思うさま錆びきった釘が手元にあります。最近たまたま乾燥豆をたくさん買ってきて、久しぶりに黒豆を煮てみるかって思って古いレシピメモ帳を引っ張り出してきたら「煮る時に錆び釘をいれる」と書いてありました。土井勝さんレシピでした。これまで数回は黒豆をおせちの時期に煮ましたが、いつも「錆び釘は無いから省略で」と流していました。でも今回はあるのです。長い間放置したせいか本当によく錆びています。軽く洗って豆に入れてみました。強火でアクをとったあとは、面倒なのでお鍋ではなく炊飯器のお粥モードを2回連続で炊いて、炊飯器に鉄釘はちょっとヒヤヒヤししましたが、そおっと入れてみると煮汁の黒い色が深くなり味もなんとなく締まった感じ。美しくおいしくできました。

これは、草木染めの「媒染」のはたらきと同じことなのではないか……。長くなってきたので次回につづきます。4年前の黒豆染めの記事を文末に置いておきます、良かったら見てみてください。

初めての草木染めは失敗から始まりますが、草木染めの失敗からわかることは、化学染料の染色よりも生活とつながる気がして興味ぶかいです。錆び釘にしても、染色の材料にしようとしていたものが料理にも使えるというのはなんか面白い。口に入るものなので安全面はちゃんと気をつけなきゃいけませんけど、古くからあるやり方はごはんをつくる場所である台所での染色に向いているなあと感じています。ありがとうございました、それではまた。

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