令和5年9月12日(火)黒豆と錆びた鉄釘、色素と媒染

こんにちは。前回の黒豆と錆び釘のお話の続きです。草木染めの染色における、媒染とは何でしょうか。染料の色素をよく発色させるためと、煮出した色素と布の繊維分子とをしっかり結合させるためなんですって。

大まかな説明はそれで済んでしまいますが実感としてピンとは来ないので、今日はもう少し考えてみたいと思います。

染色よりも料理のほうが身近だった年数が長いので、そちらの話をします。煮汁に錆び釘を入れて黒豆を煮たとき、素材である黒豆の色には何が起きているのでしょうか。手元のスマホで少し化学的なことを調べてみましょう。「黒豆の色素はアントシアニン系である。アントシアニンは水に溶けやすい。水に溶けて不安定になった色素が金属(=鉄)のイオンの力で安定し本来の黒い色に落ち着く」ということらしいです。

アントシアニンは、果実ではブルーベリー、ぶどうの皮、赤〜紫〜青色のお花にも含まれています。煮る前に水に浸けておくと黒豆の色が溶けて水が黒っぽくなってきますが、よく見ると赤紫がかった色になっていて、もともとの豆の外見の黒とは違っています。色素が不安定化するということでしょうか。それが釘の力で再び黒い色に安定するんだなぁと、なんとなくわかってきました。じゃあ鉄のイオンがあればいいのかしら、鉄釘が錆びてる必要はあるの?という細かい疑問も出てきましたが…土井勝さんのレシピには錆び釘と書いてあるので、なにか意味があるのかも。それはまた別に調べてみたいと思います。

食べ物の色が良いと美味しそうに見えて食欲がわきますよね。茄子の漬物にミョウバンを使ってきれいな青色を出したりしますし、木灰を使ってワラビのあく抜きをすると鮮やかな緑色になります。鉄、ミョウバン、木灰、それらは全部草木染めの媒染剤です。料理でも染め物でも必ず水に溶かすのですが、そうすると金属イオンが働きます。媒染の「媒」の字は媒介、媒酌人、などのことばと同じで、何かと何かを仲立ちし、結びつけるという意味をもちます。

染織家・志村ふくみさんの『一色一生』という随筆があります。私が「媒染って何なのか?」とあまり良くわからなかったときに、その本を読みました。「色の発色と定着のためです」と書いておられて、12文字という少ない文字数でサラッと説明していたのがとても印象に残りました。染織へのとても熱い想いが書かれた作品ですが要所要所、とても冷静な目が気持ち良い本です。ご興味あれば是非。