令和5年7月18日(火)繊維に関する引用①森茉莉『麻の贅沢』

7月のどっしりと重たい湿気が子供を病院に連れていく予定で余計重たく感じ「今日は麻のブラウスを着ていこう」と思った。引き出しから取り出そうとするとひやりと冷たい。あっと思って木綿スカートと比べて触ると、そっちは今の気温をそのまま吸い込んだような暖かさを含んでいる。木綿は素直なのかもしれない。

絞り染めの素材は白い布だが、ひとくちに白い布と言っても千差万別で、天然繊維だけでも大別して絹、木綿、麻、毛がある(天然繊維を使う主な理由は、化学繊維の布は手で染められる染料が多くなく私の絞りにあまり向いてないからなのと、化学繊維の機能性を活かすのは私の性格に合ってなくて企業などと比べてとてもかなわないと思ってるから。あと天然素材の着心地が好きだから)。

布はお金がかかるので木綿を一番多く染めている。でも、麻も染めてみたいと思って、いつも染めている染料でハンカチを染めたりしている。木綿に染まる染料は麻にも染まる。だけど染まり具合が少し違っていてコクのある色に染まる。初めて麻を染めたときはそのシャリッとした触り心地とさり気ない光沢を良いなと感じた。自分の鹿の子絞りの水玉模様が麻に乗っかっている。それを6歳の息子にハンカチとしていつも使ってもらってたくさん洗い込み、だんだんにやわらかくしてもらっている。

森茉莉のごく短いエッセイに麻の布についての魅力的な文章があって、自分の感じていることに近いので引用する。

布の感じだけでなく、麻という字もいいし、アサ、と読む音も、リネンという言葉のひびきもいい。

上等の麻の、どこかに珈琲色の糸の織り混ざったような、落ち着いた白の色、染めた上布の深い藍色、掛蒲団などの渋い水色、どの色もいい。

着ると冷たく、涼感があり、熱帯のような真夏の暑さを瞬間忘れさせる。手触りはしゃっきりしている。

こういうように字から何からすべて気に入っているものに、他に胡桃、葡萄酒、煙草、珈琲、などがある。

【引用元】「麻の贅沢」『私の美の世界』p114より 森茉莉著 新潮社発行

好きだからつい長めの引用をしてしまった。加えて余談だけれど同じエッセイ集『私の美の世界』のなかで「ジレ」という服(袖無しの長い羽織もの)について書いていて、1968年発行の本なのに最近流行っている服を取り上げていることにへぇっと思った。森茉莉というと小さなアパートで氷をいっぱいいれた冷たいアイスティーを作ってアンニュイに過ごす(ゴロゴロしている)エッセイも書いてるけれど、彼女の知識や感覚は改めてすごい。その性質がどうやって育まれてきたのか、何もかも私からは想像つかない。

今回紹介したエッセイ文は「贅沢とは言ったけれど、麻は木綿の服よりも長くもつから実用的でもある」と結ばれていた。皆さんも暑くて不快な日は麻を着てね。ハンカチでも。