令和5年1月19日(木)作り手とはなにかということを、電話で

「こんにちはー。しぼりぞめこです。去年は大変お世話になりまして。お元気でしたでしょうか。お正月もすっかり済んで…そうなんですね。私はお正月は2年ぶりに、実家でした。普段テレビはですね、幼児に独占されててなかなか見れないんですけども、朝はちょうどNHKの、日曜美術館のお正月特集がやっていて。東京で一番好きな美術館から中継していたので、それは絶対見たいなって、もうやってるからお父さんちょっとだけチャンネル変えてって。あっ庭園美術館のこれは何処だろー、行きたいなぁって。あっ滝沢カレン高田純次出てる。ふたりとも好きなんで、嬉しいなぁって、うん。しばらく見てたんですよね。色々いつもより面白かったんですけど、一番記憶に思った話しがですね、彫刻家?の女性が言ってたことで。インスタレーションの作品で、ツルツルとした白い空間に削った木がたくさん配置されてて丸太の幹の真ん中が全部砂時計みたいに細くなっているんですね。それがなかなか思い切った荒々しいような削り方で。何だろう?って朝ごはんつまみながら見てたら、ビーバーだって。動物の。ダム。川の、そうそう。それが全部ビーバーが削った木で、削った真ん中がけっこう細い、でも折れないくらいの絶妙なバランスで確かに、形が面白いんですよ。えーとごめんなさい、なんか話し長くなって、いや、その人が言ってたのがね、『作り手』っていうのは作品を発表する者のことだと一般には認識されているんだけど、でももっと…なんて言ってたかなぁ…私の言葉が混ざっちゃってきちゃうんですけど、作り手っていうのはもしかしたら本来重奏的なものであると。そのインスタレーション作品でいえば、彫刻家の作品であることは確かなんだけど、削ったのはビーバーだという。もっと考えたら、木が、森が作り手でもあると。作り手という言葉はもっと織物のようであって様々なものが織り込まれた布のような感じかもしれないって。だいたい、そんなことを言っていたんですよね番組のなかで。それを私が唯一実家で集中してじっと見ていて、織物というワードが出てきたところですごくピンとくるものがありました。しぼりは白い平織りの布を使って染めるんですが、その布の出来によってしぼりの感じが変わって、色も変わるんです。そういえばこの間染め物の仕事してる人とお話したときも、布素材の選択は大事だから、それぞれの染めかたに合うものを探す旅をしましょうねってところで。意見が合ったんですよね。なので、その彫刻家の人の言ってたことで考えてみると、私の場合、まず布を作ってくれる人がいて、その布は糸でできていて、その糸は綿花とか、蚕だったり、そういう植物か動物かって幅があるけど、生き物でできている。絞った布を染めるときは染液にそうっと浸けこむんですけど、水の温度で色の染まり方が違ってきたりして、日によって、今日は水の温度がいいふうに働いてくれたとか、駄目だったとか色々あって、自分の思う通りに行くか行かないかっていうのは結構ややこしいもんなんだなって。細かく考えればですけどね。でも、その細かい色々な作用があって、面白いものが出来たりするので。作り手って、しぼりぞめこだけじゃないんだわ、と考えるとちょっと腑に落ちたんですよね。自分だけでできないことをなんだかんだやってくれている者がいるなって、なんかいつも薄々そう思っていたんですよね。ひとりでやっていてさびしいなぁって思うこともあったけど、実はひとりじゃなかったのかも。一人だけど一人ではないような。もう少し、布とか水とかの声を聴ければ面白いのかもしれないですよね。あんまりそういうこと一生懸命言うと周りから怖がられちゃいそうですけどね。まあでもね、作り手というものの解釈が広がるっていうのはちょっと楽しいじゃないですか?」