令和4年12月11日(日)橋本治でハッとしたという話

絞りを習い始めたばかりのころのお話です。早く出来るようになりたくて、絞りの糸を何回くらい巻くといい絞りになるのか?絞り上げる糸の強さはどれくらいがいいのか?とたくさん質問をしました。音楽のボリュームを変えるつまみのように、自分の絞りの調子を早く設定したかったのです。コーチの答えは「人によるよ。絞り手の個性によって絞りにも性格が出るの。白っぽい絞りもあるし、黒っぽい(色の濃い)のもあるし、それぞれにいいものよ。ただ、絞り一つ一つの調子が揃っていて、統一されていると仕上がりが綺麗なのよ」というものでした。ではその調子の粒を揃えることを早く掴んでやろうと思いながら修行していました。

橋本治の『「わからない」という方法』という本があります。今年の5月に同じ著者の他の本を読んで面白かったので、さらにもう一冊、と手に取りました。その本のなかに、編み物の話が出てきます。作者は自分のお母さんから編み物を習ったそうです。というか自分の作りたいセーターを最初はお母さんに頼んで編んでもらったのですが、作りかったセーターがあまりに普通とちがうために、お母さんが弱気になって幾分常識的なセーターを作ってしまって出来に満足できず、それでは自分で作ろうと編み物を始めたというのです。

初めて自分で作ったセーターを着た話が書いてあります。セーターの写真は載っていませんでしたが、かなり独特なものらしく人前で着ると周りの人達は驚いたそうです。著者が言うには「自分で編んだ、と言ったら女性たちからは褒めて貰えるかと思ったのに、まずセーターを見て、誰が編んだの?と驚いたように聞いてくる。俺、と答えると、嘘〜やっぱり?!編み目が揃ってないものね……と納得したように返してくるのだ」ということでした。「編み目なんて、ずっと編んでいれば勝手に揃ってくるのに」と書いていて、それは真実かも、すごいなあ、と思いました。

ちなみに橋本治はその後10年編み続けて、初心者のための編み物の本を出しました。たくさん編んだから言えることです。

私は最初から「揃えよう」としてしまっていたんだなぁと思いました。

気づくと今は前ほど、「揃えよう」とは思っていないかもしれません。自分のイメージする「丁寧」に近づけようと思って絞っている気がします。揃えるのではなく、たくさん絞って揃ってくるほうがいいなぁと思っています。さらに思えば、揃ってきた絞りの糸や布や染料の関わりで偶々できた、微かな模様のばらつきというものが私は好きなのだと思います。