令和3年7月17日(土)

枕草子には絞り染めが登場する。「早く知りたいもの」について書かれた段である。ちょっとしたものを頼んで染めてもらい、仕上がってくるのを楽しみにして待っている様子。宮廷の女性たちで装いの感覚を張り合っていたようなことも、もしかするとあっただろうか。他人の子が産まれたときの性別と、辞令の発表と、絞り染めの出来上がりとが並べられたこの段は『物の上手を羨む焦燥感に近い感情として、好奇心のむずむずするものの類想』であると解説されている。実は次の段はもっとネガティブな予感のなかで早く知りたいものについて書かれており(第153段『心もとなきもの』)文章の色合いが対をなしていた。絞りのでてくる152段はどことなくたのしそうな感じがする。以下に本文を引用する。

枕草子』第152段 疾(と)くゆかしきもの。巻染、村濃、括りものなど染めたる。人の、子産みたるに、男・女、疾くきかまほし。よき人はさらなり、えせ者、下種の際だに、なほゆかし。除目の早朝。かならず知る人の、さるべきなきをりも、なほきかまほし。

 ※巻染、村濃、括りものは全て絞り染めの種類

新潮日本古典集成 枕草子(下)/新潮社 より