しぼり染めで模様をつくる① 巻き上げ絞りの技法と、型染め作家・柚木沙弥郎の言葉

f:id:mizudori_maho:20200416164122j:image
これは、先月(2020年3月)作った絞り染めです。自分で考えた形を型紙におこし、縫い絞りをほどこし、天然染料で染めています。インド茜の根っこの3~4番液を煮出して使いました。

今回は、絞り染めで模様を作り始めるまでのことを書いてみます。
個人が自宅でできる手仕事、というテーマも含んでいるかもしれません。
このブログは絞りのことを書きたいと思って始めたのですが、染めることばかり書いていました。ずっと絞りについても書きたいと思っていて何故かなかなか書けていなかったので、うれしい。

このブログでは数ヶ月から1年(またはそれ以上)の過去を振り返って書くことが多いです。今回もまた、時系つきの説明が多くなり、読みづらいこともあるかと思いますが、お時間のあるときにお読みいただければと思います。


私が絞りを始めたのが、2017年9月。
産まれて3ヶ月のむすこを育てていた時に、以前からやってみたいと思っていた絞りを始めました。
絞り手という仕事の技術をつけるため、とある絞り染めの老舗の門を叩いたのです。受け入れてもらえるのかどうかが不安だったけれど、ありがたいご理解により運良く教えてもらうことができました。


そこから1年弱(正確には9ヶ月)の間、たったひとつの絞り技法に集中した修行をしました。着物が作れる一反は無理だったけれど、一丈(いちじょう)という約4メートルの布いちめんに描かれた模様を、ひたすら自宅で縫い絞り続けました。息子がまだ赤ん坊で良く寝ているころだったので多いときは1日4~6時間作業し、だいたい2ヶ月間かかっていました。
時にはむすこを横に寝せながらの指導になったけれど、先生はとても辛抱づよく教えてくださり、心底感謝しています。
その頃のことはまた今度書くつもりですが、ここでは割愛します。

 

私が手ほどきをうけた絞りの技法は「平縫い巻き上げ絞り」です。

写真の上→左下→下中央→右下の順序で絞り染めが出来上がります。

f:id:mizudori_maho:20200416164303j:image

かんたんに説明すると、模様の輪郭をひとつひとつ手縫い針と糸で縫ってから、糸をひいて絞るというものです。
輪郭にそって縫うことで色々なかたちを表せるので、多様な模様が作れることが特徴です。
(技法の名前は安藤宏子さんの本で調べました。細かな方法は、同著者の「絞り染め大全(誠文堂新光社)」という本に載っています。)


絞りができるようになったら、今度は自分で絞りを染めたいと思いました。翌年の2018年の6月のことです。
それまではプロの染めてくれる人がいたわけだけれど、自分で染めるとなると-ー。
模様のデザインから自前でする必要があります。染める布や絞る糸なども揃えなくてはなりません。
2ヶ月の間くらいは、模様は習った絞りの模様デザインを思い出し真似て、手書きの型紙をつくり、家にあった木綿の布に描きうつして絞りをしていました。復習もかねて、毎日続けることで技術を落とさないためにも。
それから『絞りノート』というものを作り、習ったことをもう一度書き留めながらひたすら絞りました。習ったことを書き終わると、新しく自分で調べたことやスケッチを書いていきました。

f:id:mizudori_maho:20200416164646j:image
写真は、現在5冊目になった絞りノートです。

 

次に、絞った布きれを自分で染められるかというハードルがありました。
絞った布は、やってみてわかったけれど、防染(白い部分を残すこと)ができなければ模様にはなりません。
染色は全くの未経験でしたので、身近な天然染料で実験したら、最初はやっぱり失敗しました。

その時のブログ記事はこちらです。

 

shiborizomeko.hateblo.jp

 

より専門的な本を探したりしてしばらく試作の小さな絞り布の染色を繰り返し、どうにか同じ年の夏の間にきちんと防染された模様が染められるようになりました。
今でも模様のつくりや布の種類、染料の種類によっては思い通りに染まらないこともありますが、どんどん経験していくしかなさそうです。

 

そしてやっと、自分の模様が作れそうなところまで来ました。今から1年半前の、2018年の秋になっていました。
始めは想像もしていませんでしたが、自分の模様をつくれるということが、その時はうれしく感じるようになっていました。
それは第一に絞り染めで生まれる模様があまりにも面白くて綺麗だと思っているからです。修行中はあらかじめデザインをされたものをきちんと絞ることに集中していたけれど、自分だけの模様を作れるのなら、さらに面白くなるかもしれないと思いました。
第二に、布に表す模様の技法として絞り染めがとても新鮮に感じられる時代に生きているのではないかと思うからです。
個人的にも、模様というものが好きだし。日本の着物の模様とか、イランの教会の連続模様とか、昔から好きです。

色々なスケッチを描き出し、草木、野菜、映画の衣装など、見るもの全て模様の参考にしようとしました。少し前に刺し子をしていたのもあり、昔から日本にある模様もたくさん参考にしました。

作っていた刺し子ふきんです。伝統模様で、左が柿の花、右が竹の模様です。
f:id:mizudori_maho:20200416165210j:image
こういう模様は見ているだけで心が落ち着きます。何故そういう気持ちになるのだろう。模様は面白いなと思います。


自分で模様を作り出しても、すぐにめざましいものはできませんでした。
絞りと染めの練習になるのであまり気にせず、ひとつのかたち(模様になる絞りのパーツ)を作りそれを規則的に繰り返すというシンプルなものを作り続けました。

その頃、2018年7月~2019年前半くらいまでに作っていた絞り染めはこんな感じです。
f:id:mizudori_maho:20200416165415j:image
全て巻き上げ絞りの技法のみで出来ています。その頃、絞りノートに書いていた感想は次のようなものでした。
「10月某日 楽しい。糸解きのときが味わえる。もようを自力で考え、縫う順序なども考え、試すのが大変。染料は木綿の場合、スレン染料が向いているようだ。天然染料は時間がかかるのだけど面白い。長い目で試していきたい。ただ、濃い色を得るのが大変。」

 

しかし、もっと自分らしいものがつくれないかな?と考えてもいました。
10月頃、涼しいなぁ、と思いながらたまたま市内の新しく出来た本屋に行った時、美術工芸関連のコーナーに柚木沙弥郎さんの作品集を見つけました。ぱらぱらと中をめくると自然光の下の写真がとても良い。日本民藝館で撮られ、編集された本でした。
(店主は柚木さんファンで、少しお話をしたけど良い人でした)

その本のタイトルは『柚木沙弥郎の染色 もようと色彩』

表紙
f:id:mizudori_maho:20200416165820j:image

裏側
f:id:mizudori_maho:20200416165838j:image

この本を買ったころは「あれ?模様って、そもそも何だろう…」とちょっとこんがらがって考えていました。

作品の写真はもちろんですが、柚木さんの『この本を手に取るすべての人へ』という文章がとても良く、家でゆっくりと読みました。悩みが晴れるような気がしました。

104ページ《模様とは何か》より引用
『…絵画を煎じつめたものが模様じゃないでしょうか』『模様とはどういうものかというと、柳先生がおっしゃるように、ある法則があって、それに則って、かつ自由なもの。』
(※柳先生=柳宗悦のこと)
とあります。少しむずかしいですが、生活のなかで得る躍動感から良い模様ができる、という内容が書かれていました。

105ページ《模様を生み出すには》より引用
『模様を生み出すにはうれしくなるよりしょうがない。わくわくしてなきゃ。そんな状態に自分がなれなきゃ生み出せないんです。そういう活力ですよ。エネルギー。しかたないからやるんじゃない。こっちからやらなきゃ。面白いなあと思って、そうすると色々出てくるんですよ。寝てる間に出てくるんです。夜明けに。四六時中考えていないとダメ。いろんなものがヒントになるわけ。』
『結局模様が美なんです。ものの本質としての生き生きとした部分を一番明瞭に切り出したのが模様。』
『はじめは好き嫌いでいいんですよ…(略)…初心者でも熟練した人でも、次第に向上します』

模様を生み出すにはうれしくなるよりしょうがないのだ

はじめは好き嫌いでいいのだ

どんな人も次第に向上する

という、柚木さんの言葉はわたしにとって春の光のように優しく(現実は秋だったけど…)疑問をといてくれた。緊張しなくてもいいよ、と言ってもらってるようでした。
もちろん、それも簡単なことではないのだろうけれど。

f:id:mizudori_maho:20200416165956j:image

柚木さんは型染めの作家です。何かで読みましたが、型を下書きなしにハサミで切ったりもするらしいです。自由で心地よく、のびやかな模様を作られてていて憧れます。
あんなふうには出来ないですが、私は絞り染めで優しく包まれるような模様がつくれたらなあと思いました。


柚木さんの本を読んだあとに、こんな模様を考えて絞りにとりかかりました。

f:id:mizudori_maho:20200416170507j:image

型紙を布に写しています

f:id:mizudori_maho:20200416170934j:image

縫っていきます


f:id:mizudori_maho:20200416171150j:image

全部絞ったところです


この模様を考えたのはある日の散歩中。

公園の木の枝の先の葉っぱがとても綺麗で、良くある大きな木の、良くある葉っぱだけれど、その枝の梢の先が何故か記憶に残りました。木の名前を知りたいと今は思うけれど、うっかり調べるのも忘れていてしまいました。シマトネリコという木が似ているような気がするけれどわかりません。
(連れていた一歳半の息子をそのとき抱いていたのか、ベビーカーにのせていたのかも覚えていません。)

相似形の葉っぱが、枝にたくさんついている。枝の先に行くほどだんだん小さくなる。葉のデザインは同じなのに、木琴を叩いたとき音階がひとつずつポンポンポンと上がっていくように、だんだん小さくなっていくのが可愛い。
今まで何度も見ているものをはじめて見たような気になって見とれてしまい、楽しくなってしまったのです。それで模様ができました。 


f:id:mizudori_maho:20200416171512j:image

f:id:mizudori_maho:20200416171442j:image

初めて自分らしい絞りの模様が出来たと思いました。部屋に飾ったり温泉へ持って行ったりして近くにおいて使っています。
比較的細かい模様で、一番小さなところは小指の先ほどです。
布地は文(ぶん/織り目のざっくりした規格/総理)を使ったら、絞りの糸を巻いたところの模様が綺麗に染まらなかったので、細い糸を使ったなめらかな織りの岡(おか)という規格の布にしてみたら良くなりました。
普段使っていた市販の手ぬぐいを調べてみると、細かい模様は細かい織りの布に染めるようです。初歩的なことですが、布と染め模様の相性は重要なのだと知りました。
紙と画材の関係を想像するとちょっと分かりやすいかもしれません。例えばクレヨンで描くときはざらっとした画用紙が向いていますね。基本的な相性というものがあるのだと思います。

※手ぬぐいの細かい柄がかすれて消えてしまった例が『手ぬぐいを知る、作る、使う 手ぬぐいクリエイター』(てぬクリ実行委員会編)のp.57に紹介されていて参考になりました。

 

染料はみやこ染のスレンを使いました。
日本の伝統色をイメージしているのでしょうか、紅色のような赤です。
(スレン染料は絞り染めに向いている染料です。しかも日光や洗濯による色落ちの少ない染料なので手ぬぐいとして実用的。
みやこ染というメーカーのものは家庭用染料なので、キッチンでもじゅうぶんに染めることができます。)

f:id:mizudori_maho:20200416171849j:image

温泉で濡れたところ


f:id:mizudori_maho:20200416171619j:image

自然光のもとで撮りました

 

これは、柚木さんのおっしゃるような良い模様とは違うとは思います。
今お読みになっている人にもピンと来てもらえるかは、わかりません。 

でも、私の絞り染め模様の第一歩になりました。この模様は梢(kozue)という名前にしました。これからも色を変えたりして、絞り染めしていこうと思っています。
あの時じっと見た木の名前がいつかわかるといいなと思いながら。

絞りノートの記録にこんなことも書いてありました。
「11月某日 修行先でやってたときはもっと手早かった。もっと一生懸命進めていた。今、いろいろ考えてしまう。柄のこと、次に何をつくるかなど。絞りをやり始めたらよけいなこと考えるのはへらそう。ゼロにはならないけど。修行先の時は、ひたすらキレイに、手早くをこころがけている感じだった。早くあげて、できたものを見てもらいたい一心でやっていた」

以上、2018年の模様づくりを振り返ってみました。
次記事では2019年からの、絞り技法を増やしたことについて書く予定です。

こういう記事を書くことで、しぼり染めに興味を持ってくれる人とか、やってみよー、と思ってくれる人がいたらいいなと思っています。

長くて、拙い文章をお読み頂き、ありがとうございました。
ご感想やご質問、ご指摘などがありましたらコメントをお願い致します。


まとめ

・平縫い巻き上げ絞り=絞り染めの技法のひとつ。輪郭を縫ってから絞ることで、葉っぱなどの形も自由に表現できる

・細かい模様を絞り染めにするときは細かい織りの布が向く

・オリジナルの模様を作るつもりはなかったが絞りを続けるうちに作ることになっていった

・絞りの効果自体面白いので模様を自分で作るのが楽しい

・「模様を生み出すにはうれしくなるよりしょうがない」型染め作家柚木沙弥郎の言葉
※柚木沙弥郎(ゆのき さみろう) 1922年、東京・田端生まれ。初作品の型染めが日本民藝館の所蔵となる。国画会展に毎年参加、現在も精力的に制作を続けている。(柚木沙弥郎オフィシャルサイトより)

・「模様とは、ある法則があって、それに則って、かつ自由なもの」柳宗悦の教え
柳宗悦(やなぎ むねよし) 1889年~1961年 民藝運動を起こした思想家、美学者、宗教哲学者。東京・駒場日本民藝館の初代館長をつとめた。(Wikipediaより)