しぼり染めで模様をつくる③鹿の子絞り技法を独学する

こんにちは。今回は珍しく、長文記事です。

このシリーズについて

「しぼり染めで模様をつくる」①

shiborizomeko.hateblo.jp

 

「しぼり染めで模様をつくる」②

shiborizomeko.hateblo.jp

以上、2本の記事の続きです。

このシリーズは、絞りの修行で習って身につけた技法を使ってしばらくそれだけで模様をつくったあと、新しい技法を取り入れていくまでのことを記録していくシリーズです。

 

長期間のことをまとめるのに思いのほか時間がかかってしまい、続きを更新するのに3年もかかりました。

 

 

今日(3回目)は新しい技法「鹿の子絞り」について、次回(4回目)は「平縫い引き締め絞り」についてを

それぞれ独学した経緯を書きます。

 

結論を先に言うと、「〈習うこと〉と〈独学〉は、かなり違ったものだった」です。

「独学とはなにか」ということも、自分の絞りの経験を通して考えたので、併せて書いていきます。

それでは、お飲み物などをおともに、休み休みお付き合いください。

 

 

独学とはなにか?

「独学」とは何でしょうか?

「独りで学ぶ」には、お手本や参考書が必要です。

絞り染めの場合、ものすごく歴史が長いので先人の研究や教えの蓄積があります。それでも、出版されて本になっているものは数えるほどです。

図書館を利用したり、インターネットを使って購入したりして、できる限りの情報収集をしました。

 

今の私は師弟関係をもたないので、勘違いや回り道をたびたび経験します。

師弟関係がないことでリアルに教えてもらえないデメリットがあり、裏返せば、自分にとって「必要な」課題に「最短の時間で」取り組むことができるメリットがあります。

「鹿の子絞りを学びたければ、その前に〇〇をできるようになりなさい」と、誰も私に言ってこないからです。

 

実践への導火線となった、ジェーンカレンダーの鹿の子絞り

2019年1月、鹿の子絞りを身につけたい、という気持ちが盛り上がっていました。

2017年〜2018年に老舗の絞り工房で、巻き上げ絞り技法の修行はうけたものの、

身に付けた技法はひとつだけ。

鹿の子絞りをやってみたくても、技術を教えてくれる人はいませんでした。

 

②の記事では「鹿の子絞りが点の表現だから鹿の子絞りを学んだ」ということをお話しました。

しかし、一番大きなきっかけは、イギリスのJane Callendarの出版した本に出会ったことです。

著者の作品集によって、鹿の子絞り技法の新しい面を知りました。

Stitched shibori(縫い絞り)

 

京都に知られる鹿の子絞りの凸凹(シボ)ではなく、平面で見せる鹿の子絞り。

Jane Callenderの絞り染め作品の鹿の子絞り

もともと、鹿の子絞りは平面にして見せるものでした。

正倉院宝物の中に奈良時代の鹿の子絞りがあります。

インドやアフリカなど、鹿の子絞りと同じ技法がありますが、たいてい仕上がりは平面になっています。

(江戸時代、それまでになかった「型染め」による模様染めがされるようになった頃、鹿の子絞り風の布が出回った。

「型染めよりもずっと手間のかかる絞り染めの価値を上げるために絞り特有のシボを残した」という説がある。

現代でも、女児や女性の着物の帯揚げがポコポコと凸凹になっているものがそれにあたる。総鹿の子絞りの着物は大変高価。肌当たりや風合いに独特さが生まれるため、一部に好まれる。)

 

 

ジェーン・カレンダーの作品の独自性について私見(鹿の子絞り)

このブログで、度々取り上げているJane Callendar作品は、鹿の子絞りを単体であまり使わず、他の技法と組み合わせているところや、その組み合わせの妙に独自性があると思います。

複数の技法が組み合わされている絞りの布は世界にいくらでも存在しますが、その組み合わせかたや、絞りに対する感受性がこまやかで独創的なのです。

Janeの作品「カレイドスコープ」

 

私には、Janeの鹿の子絞りが、まるで光の粒のように見えます。

または、お花が咲いたときに立ち上る香りの粒子のようにも見えます。

この鹿の子絞りのあしらい方は「見えるとしても一瞬であり、決して手で触れることができない、きらめきのようなもの」を表現しているのでは、と感じました。

 

Janeの作品にすっかり影響され「鹿の子絞りができるようになりたい」という火が私に着けられたのでした。

 

 

鹿の子絞りは本で独学した

 

鹿の子絞りの技術と周辺知識は全て本に頼りました。

知識は安藤宏子さんの本、絞り技術は有松鳴海絞りの榊原あさこさんの本を参考にしました。

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有松地方で本格的な技法を学んだ榊原あさこさんは、大事なポイントは外さず、やり方を少し簡単にアレンジしています。

実践する側の作りやすさを大事にしていて、とても良い指南書だと思います。

 

 

鹿の子絞りの原理

鹿の子絞りとは意外にも、最も原始的な絞り方です。

布を指でつまんで糸を強く巻きつけるだけです。

ただし、染めても糸が解けないように、最後に糸をひっかけて(「かもさげ」)留めて出来上がりです。

 

鹿の子絞りにはいくつか種類があります。

専用の道具(針のついたもの)で刺して引っ張ってから絞る派と、手先で布を畳み、指の力加減だけで絞る派があります。

私がしているのは後者で、難易度が高く、職人が数少ないとされる京都の「疋田絞り(ひったしぼり)」と同じスタイルです。

 

ただ、本当の疋田絞りは布にビッシリと鹿の子絞りを施します。

布の幅に対して隙間なく鹿の子の粒を並べ、しかも摘んだ絹布に、絹糸を9回も巻き付けるそうです。

私の場合は、いつもの木綿の太めの糸で2回糸を巻いて「かもさげ」という留め方をします。なので、出来たものは疋田絞りとは幾分違うものになります。

※最近は4-6回ほど糸を巻けるようになり、疋田絞りに近い、白場の多い鹿の子が染められるようになりました。

 

 

鹿の子絞りの難し(むずかし)ポイント

疋田の鹿の子絞りは、はじめに指で布をつまみます。

その時、布を2回折りたたむようにするので、染め上げると四角っぽい形になります。

鹿の子のサイズをきめるのがなかなか難しくサイズがバラバラになったり、点表現というにはだいぶ大きすぎたりしてしまいます。

 

鹿の子絞りの練習をしばらくやるとだんだん加減がわかってきました。

布にもよりますが、だいたい米粒サイズの絞りにするといい感じでした。

 

鹿の子の粒を絞るとき、1回、2回と糸を巻き、最後の「かもさげ」で糸を自分の方へゆ〜っくりと引っ張ると「ちゃんとギュッと締まったよ!」という感じの「キューッ」という音が手元から鳴ったような感じがします。(実際に音が鳴るわけではないです)

染めるときに糸が解けてしまうと鹿の子模様が台無しになるので、注意深く締めます。

 

既に修行で身につけていた巻き上げ絞りの技法も、同じく糸を巻いて絞る技法なので習っていたことが役にたち、鹿の子絞りに応用できました。

しばらく繰り返すうち、糸を巻きつけるその角度も両手の指の使い方も巻き上げ絞りとコツが同じと気づきました。

そのおかげで思っていたより短期間でマスターできました。

やってみるまでは鹿の子絞りなんてすごく難しそう、時間がかかりそうだし……と、取り掛かるまでしばらくグズグズししていたのですが、意外と、できるものです。

 

庭の花

鹿の子絞りが可能となったので、もともと習っていた巻き上げ絞りと組み合わせた模様をデザインしました。

七宝つなぎという古典模様をベースに変わり模様としてにアレンジしたものです。「庭に咲かせた花とその花にたいする愛情」をモチーフとして作りました。

 

バッグとハンカチ

 

京都の絞りの人の話

 

鹿の子絞りを始めて数ヶ月した夏に、県内のギャラリーに京都からの絞り染めの展示がきていました。

大雨のときで、他に人がいなくて、ゆっくり説明を受けながら展示を見たあとです。

今は手探りで絞りをやっていることを、自分でデザインした鹿の子絞り入りの布の写真を見せながらお話してみました。

すると、鹿の子絞りについて質問をうけました。「あなたはどうやってるの?」と方法を聞いてくれたのです。

「こうやって、布をつまんで。指と糸だけで絞りました」と手振りをつかって伝えると、「へぇ!京都の疋田絞りと同じですよ、難しい技法です」とちょっと感心されました。ふふふ。うれしい。

ただ、糸の素材、巻く回数などを細かく言えば厳密には違いますし、お世辞的な部分もかなりあるだろうとは思うのですが(笑)

まずは自分の鹿の子絞りが、京都の人との話の種くらいにはなったんだな~という、

東北に来て絞りをひとつ習っただけの私には、初めての楽しいやりとりの経験でした。

 

 

鹿の子絞り、これからの課題と希望

「糸の巻いたところが強く防染されて白がくっきりと布に存在する」というのが平面にしたときの鹿の子絞りに対する印象です。

白いくくりの内側にできる微妙なグラデーションに魅力を感じたりもします。

他の技法とうまく響き合っていくと面白いかもしれない、と思っています。

これからも鹿の子絞りの技法をとり入れた模様をつくりながら、実験をつづけていきたいです。

 

今後は、大き目の素朴な鹿の子絞りと、小さくて感覚の狭い繊細な鹿の子絞り、両方使い分けしたいと思っています。

本当は細かい疋田絞りを京都の本場で習えたらよいのですが、難しい技法はそうそう簡単に教えてもらえるチャンスはありません。万一、京都に移住したとしても、教えてもらえるかはどうかわかりません。

 

でもね、チャンスというのはのきれいな石みたいなもので、出会える時はたまたま突然起こったりしますよね。

そのタイミングで選ばれた、希望を持っている人にだけ、意外と簡単に拾い上げられるものかもしれませんよね。どうやっても開かなかった扉がふと開くときがきっとあるのだと思っています。

 

それまでは本を見たり、使える道具を使って独学していきます。

手と糸だけで絞るだけではなく、みやこ染めの「絞り器」(針のついた器具)を導入しようかな?と今は考えています。

 

最後に、鹿の子絞りを使った作品を、いくつか載せておきます。

わたしのアイコン

 

今回は以上です。ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

次回からはしばらく、いつもの短文記事に戻ります。

それでは。