濃染剤の成分を調べていたら、界面活性剤について知った話(前編)

最近、染色助剤について勉強してわかったことを、ちまちまと紙のノートに書いたりしています。
助剤とは何か、を書いた過去記事はこちらです↓
助剤について/化学のこと、まず何を知りたいか決めたよ - しぼりぞめこの制作日記

今回は、染色助剤のひとつの「濃染剤」について書きます。

染料店で購入できる薬剤

染色の濃染剤というものが、染料店に売っています。1000円前後で、安価です。
草木染めをする人の中には、買ったことのある人も多い薬剤なのではないかと思います。
化学薬品に限らず、大豆の汁も濃染の材料になります。でも薬剤の作業が手軽だと聞いていたので「そのうち使うかもね〜」と念の為1本買っておいたのです。

布に濃染加工をする理由

濃染とは、布を濃い色に染めるためにする下処理のことです。下染めとも言います。
用意した染液に色素が少なければ濃染処理しても濃くはなりませんが、染液に色素がじゅうぶん溶け出している場合は効果的です。

濃染する理由は、綿や麻の繊維が、多くの草木染めの色素に染まりづらいからです。
染色をはじめて間もなくこのことを知った時、私の頭には「なぜ日本の古来から続いているはずの草木染めの色が、身近な繊維である綿や麻に染まりづらいのか?」という疑問が浮かびました。

その答えとしては、綿や麻の繊維分子の性質上、草木からとれる色素が結合しにくいことや、日本を含めた多くの国では綿が比較的新しい繊維であること、古代の染色技術が今よりも高かったことなどを、大まかにあげることができると思います。

そのようなわけで、草木染めの色は絹や羊毛の動物繊維には染まりやすく、綿や麻などの植物には染まりづらいです(例外はありますが)。

綿や麻は私たちの生活に身近なものであり、洗濯などの手入れがしやすい繊維です。また、丈夫な布が織られているので縫い絞り加工に向いてもいます。
だから、布に濃染処理をして、色が染まりやすくしたいのです。

黒豆染めで一度、濃染に失敗

今年の1月、久しぶりの黒豆染めをしました。
黒豆の色素は煮出すと濃く見えますが、綿の布には薄くしか染まりません。
薄くても綺麗な色ですが、絞り染めの白い模様を際立たせるために濃染剤を使ってみました。

染料店で買った濃染剤を初めて使ってみた日、薬剤を水に溶かして布を浸してから黒豆の汁で染色しました。
染め始めて10分間ほど経過しても色の染まりつきが良くないようで「さっき濃染剤を使ってみたはずなのに、おかしいな?」思いました。

原因を考えてみると、うっかりしていて薬剤の説明書きを見落としていたことがわかりました。
濃染剤を「お湯に溶かす」と書いてあるのに、間違って冷水に溶かしてしまっていたのです。

2回目の重ね染めのとき、今度は説明書きどおりにお湯で溶かし布を浸して処理してみると、同じ濃度の染液で染めてはっきりと違いがでました。
染液に入れてしばらく動かすと、みるみる色が入っていき濃く染めることができました。やったあやったあ。

ジワジワ気になる濃染剤

濃染することが出来て、ひとまず満足。でも、使ってみたら余計気になってきたんですよね、
濃染剤っていったい、何なのだろう?ということが。

大豆の汁でも濃染処理ができます。
何故か、材料が大豆だというだけで、なんとなく納得がいく気がしてしまいます。
考えてみるとちょっと不思議なのですが、「ああ大豆なのか」って(厳密には大豆のことを実際そんなに知らないのかもしれない、いや本当にそうだと思うのですが、大豆が身近な植物であり、なおかつ食品であるためになんとなく知っていると思える…みたいな感じですかね)。
大豆の汁を濃染に使いはじめたのは山崎青樹(1923〜2010)なので、ここ数十年くらいの新しい方法です。
でも、もっと古くから染色の下地には大豆の汁が使われてきたので、なんとなく馴染んでいる気がするのはそういうイメージのせいもあるかもしれません。

大豆による濃染の仕組みは、絹(タンパク質)が染まりやすいので、それと同じ条件を綿の布に人工的に付加するということです。
綿の繊維にタンパク質が吸収されることで濃く染まるんです。
これは周りの人にも理解してもらいやすそうですね。

薬剤の濃染剤は、タンパク質処理と仕組みが違うようなので、自分はいったい何を使って何をしているのかをわかりたくなりました。

濃染剤の何を知りたいのか

「染色に使うものだし、濃染剤の主成分くらいは知っておこう!」と調べ始めました。
成分の化学式が知りたいわけではありません。化学式も後々わかったほうがいいのでしょうけど、慣れてなくて難しいので後に回そうと思います。

知りたいのは、主成分がだいたいどんなものか?ということであり、それは身近な例でどんなものと近いのか?ということです。
それを知ることで、理解が難しいと言われる、染色の仕組みの一部が学べるのではないかな、と考えています。

濃染剤の成分を知るために

まず、私の購入した濃染剤の薬の瓶には成分表記がありませんでした。調べる材料ゼロ。
液体の見た目はうすーい黄色っぽくてちょっとトロミがあります。
これだけでは何もわからないな、、と困りました。

そのあとは、こんな流れで考えていきました。
「濃染剤には、お湯のほうが効果アップするものが多く入っている?
(間違って冷水に溶かしたとき、明らかに効果がなかったから)
濃染剤の成分は溶かす水の温度でかなり効果が変わるタイプの成分。
じゃ、冷水だとあまり効かず、温水だと効果が出るものには何がある?
たとえば食器洗剤とか、冷たい水よりも温水のほうが明らかに油汚れが落ちるよね。
でも、濃染剤は洗浄と無関係。
そう言えば、草木染めの濃染処理に洗濯柔軟剤が代用できると聞いたことがある。
ということは、濃染剤の主成分は柔軟剤と近いのではないか?
食器洗剤も柔軟剤も、主な成分は界面活性剤なので、界面活性剤について勉強すればその仕組みが理解できるはず。」

そんなふうに考えていきました。

濃染剤の主成分は洗濯柔軟剤と近いのではないか
結局このことが濃染剤がどんなものかを知るための大きなヒントになりました。
青木正明さんのブログと、著書『天然染料の科学』のコラム部分に「柔軟剤で綿の布が濃く染まる」ということが書いてあって、へー!と感心したことがあったな、、と思い出したのです。

界面活性剤って?

界面活性剤のことは、知っているようで知らないことが多いです。
洗剤だけでなくシャンプーやリンス、化粧品などにも使われており、身近なものです。

界面活性剤については「日本界面活性剤工業会」というサイトにかなりわかりやすくまとめられていて、助かりました。

日本界面活性剤工業会

「界面ってそもそも何か?」ということについては、こちらのnote記事がわかりやすかったです。

界面活性剤と乳化剤、そして乳化について語ろう|いつき@食品メーカーの中の人



界面活性剤は性質ごとに大きく分けて4種類あって、働きがさまざまだということを知りました。

詳しくは次の機会に、界面活性剤について書きたいと思います。

最大のポイントは「なぜ草木染めの色が綿の布に染まりやすくなったのか?」ということです。
もう少しちゃんと理解できたら書いてみますね。

それではまた。