令和4年5月17日(火)密やかな染め色

高校のとき合唱部で、公立高校の混声にはよくある部員数の面で貧弱な部活だった。壮大でかっこいい曲をやりたがる人もいたが、私は小さい曲を推薦していた。出せる音にとても似合うからだ。「真昼の星」という曲の歌詞で「ひかえめな こどくなほしは まひるのそらの はるかなおくに きらめいている ひそやかに しずかに」というそれだけの短い歌なのだが、今でも時々思い出す。私は草木染の老舗の会社で絞りを学んだが、職人が十回くらい染め重ねた、こっくりした色の染め物とは全然違うものしかできない。全然違うものができる、とも言える。先日、色見本を作ろうと見かえした草木染の絞りの色は頑張ったものでも真昼の星だ。小児病棟の遊び場で弾いたおもちゃのピアノの音色だ。子供の合唱の声だ。上手く染めたいという向上心のほうも大事だが、そういうしょぼい輝きが、人の心のなかに弱く長く消えずに残ることもあると思っている。