令和4年6月9日(木)闇と黒色

かなり前、黒い色の絞りを染めたことが一度ある。真っ黒が怖いので染料の80%の濃度で染めたら、チャコールグレーのような色になった。家族からは中途半端な黒という感想をもらって「黒はしばらくやめよう」と思った。染め物の黒は奥が深い。きものの時代でもフォーマルの黒・喪服の黒であり、急なときにだって黒い紋付きの羽織さえ羽織れば参列できたと聞く。人々にとって大事でありつづけた色なのだ。

絵の具で塗り潰した黒や、PCの液晶の真っ黒を、私は怖い。今までで1番美しかった黒は友達(の友達)が撮影した16ミリフィルム『箱の中の光景』というタイトルの自主制作映画だ。他のメディアにコピーする際にテレシネという作業で部屋を真っ暗にして映写機で映した、その映画に映っていた黒。先日『カリガリ博士』(白黒映画)を家族とアマゾンプライムで観ながら、なぜ私が昔観たあの『箱の中の光景』の黒はあんなに美しかったの、と問うと「デジタルの黒は光を映してできる黒で、逆にフィルムの黒は遮蔽することでできている。そのとき見えていた黒は、その場の空間にある闇の色だからでは」という答えがかえってきてとても驚いた。説明として正確かはわからないが……と言われたけど、合っている気がした。そういえば闇は美しくて、その色は決して怖いものではない。なかでも私は闇の中で目を開けた色が美しいと思う。何故かは知らないけれど目を閉じると微妙に色が変わる(少し明るくなる気がする)。

そんなデジタルとフィルムの黒の違いを話してから、人にとって大事な黒色をいつか染めてみたいなあと感じるようになった。これはというタイミングがきたら、闇の色をイメージして染めてみたい。